| 大平由美の日本酒が好き |
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【1】 「・・はじめての酒蔵・・(山口県 獺祭<だっさい>)」訪問先 山口県玖珂郡周東町獺越 旭酒造株式会社
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□初めての酒蔵
旭酒造(株) 山口県周東町
2004年1月26日(月) 晴れ
朝、8時33分東京発ののぞみ号で、山口県に向かいました。初めての酒蔵体験という緊張感から、昨夜はよく眠れなかったので、新幹線の中でゆっくりしようと目論んでいたのですが、思いの外、ビジネスマンで車内は埋まっており、驚いてしまいました。
隣のボックスでコーヒーを飲み終え、レジュメに目を落としている二人組は、商談のための出張なんだろう…折りたたみ式の簡易机の上に置いた萌黄色の巾着から、おにぎりをひとつ取り出して頬張りながら、新聞を広げている斜め後ろの男性は、週末を家族と過ごした自宅を出て、妻の手弁当という最高の朝ご飯を味わいながら、いつものように単身赴任先に向かうのだろう…それぞれの人々が、それぞれの物語を紡ぎながら今日という日を送るのだろう…そして仕事を終えた彼らは、一様に皆、ホッとしておいしいお酒を飲みながら、わが物語の続きに思いを馳せるのだろう…などと、想像をたくましくしているうちに、右手に富士山が大きく見えてきました。
そろそろ静岡です。目指す酒蔵、“獺祭”の旭酒造までは、まだまだ時間がかかります。
広島でこだま号に乗り換え、徳山下車。そこからレンタカーを借りて、携帯が圏外になるまで、約40分ほど山の中に入っていくという長旅ですが、移動の間を含めて、見るもの、聞くもの、すべてをそのまま楽しんでしまおうと思います。
そう、五感を刺激してこそ『旅!』と呼べるのです。
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午後2時、とうとう着きました。
ここが、わたしがこよなく愛する“獺祭”を、年間通じて造り続けてくださっている旭酒造です。
さっそく出迎えてくださった桜井社長に、蔵の中を案内していただきました。
前週から居座っている寒気団の影響で、昼日中とはいえ、この日も外はかなり気温が低かったのですが、蔵の中はさらにひんやりとしており、おのずと背筋がシャンと伸びていきます。
スーッと息を吸うと、独特の吟醸香が鼻の奥をくすぐり、なんともいえず、いい気分になっていきます。
230年以上前からあるという建物をベースに徐々に蔵を広げ、それを毎年、修繕をしながら維持されているとのこと、ご苦労がしのばれます。そんな中で、蔵人さんたちが、誰一人私語をかわすこともなく、淡々と、しかも真剣に仕事をされているのが、とても印象的でした。
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“獺祭”の特徴は、磨きぬかれた米にあります。
「良い米を使って、よく磨く」すべてはそこからスタートするという社長の言葉どおり、23%という極限値まで磨かれた山田錦は、薄明るい蔵の中で、宝石のようにキラキラと光ってみえました。
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 今回、わたしが一番、この目で見て音を聞き、匂いを感じたかったのは、もろみです。
7日目、14日目、21日目と、それぞれの仕込みタンクを見せていただきました。
7日目のタンクからは、まだお米の匂いがプーンと香りましたが、14日目、21日目となるにつれ、発酵が進んでパチパチというかすかな音とふくよかな香りが立ち昇ってきます。
このあたりになると、仕込みは機械よりも蔵人の能力、言うなれば、経験と勘が頼りになってくるそうです。
この日も、0.1度単位で温度調節をするために、電球がひとつ、ほんのりとタンクの中のもろみを照らしていました。
こういった作業の果てに、“獺祭”ができあがっていくことが、不思議な気すらします。
先人が生み出した酒造りの知恵と心が次の世代、次の世代と伝わって、今、わたしたちを楽しませてくれていることに、あらためて感謝の気持ちが湧いてきました。
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あまりに美しいもろみ…思わず引き込まれそうになりましたが、中に落ちると、二酸化炭素中毒で、あの世行きだそうです。発酵して炭酸ガスが盛んに発生しているのですから、当然のことですが、馥郁とした香りの中で死ねるなら、それもいいかもしれないと、つい不謹慎なことを想像してしまいました。
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☆ 閑話休題
プライベートでは、ネットオークションで手に入れたアルファ・ロメオでのドライブが目下の楽しみという、杜氏社長の桜井博志氏に、7つの質問!
Q1 酒造りをしていなかったら、どんな仕事についていたと思いますか?
A 無職!
Q2 この仕事をしていて今まで一番、嬉しかったことは何ですか?
A 今現在が一番、嬉しい。いい酒を造り、お客様に喜んでいただけることほど、嬉しいことはありません。
Q3 反対に、今までで一番、辛かったことは、何ですか?
A それは秘密…
Q4 ひとつだけ魔法が使えるとしたら、何がほしいですか?
A お金!酒造りに、もっとお金をかけたい。
Q5 好きな言葉は、何ですか?
A “志”。夢を理想に、理想を現実にするための、“志”。
Q6 嫌いな言葉は、何ですか?
A ナシ!
Q7 お酒がこの世になかったら、人間はどうしていたと思いますか?
A もっとひどい悪の道を探し、そこにのめり込んでいるでしょう。
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☆飲み方指南(酒蔵が推薦する、楽しむための飲み方)
…もしも“獺祭”だけしか置いてない、酒バーがあったら…
ファースト・オーダーは、三割九分の磨き!旬のものを和えた、つき出しを肴に、まず一献といきましょう。
きれいな香りが印象的な、キレがあるのに豊かな味わいのお酒です。
白身のお刺身が出てきたら、ぐっと奮発して二割三分の遠心分離!
日本最高の精米歩合が頷ける、極上の味です。二杯目、三杯目と、どんどんふくよかに変化していく、これぞ、ハレの日のお酒です。
揚げ物には、やっぱり、にごり酒!
栓をあけた瞬間、シャンパンのように発泡する獺祭のにごりは、日本酒という既成の概念をひらりと超えた、さわやかさに満ちた、にごり酒です。
もちろん、好みは千差万別、人それぞれです。が、この飲み方が一番、獺祭を楽しむことができるのでは、とのことでした。
今夜は、徳山にある蔵元推薦のお料理屋さんで、ふぐをいただくことになっているので、お酒は、素直にこの順序で堪能しようと決めました。
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☆ビールも作っています!
平成10年から製造している地ビール、オッターフェストは、たっぷりと麦芽を使って上面発酵させたエールタイプのビールです。
下面発酵のラガーが今や世界の主流ですが、フルーティな香りと微妙な甘みが楽しめるエールも、このところ密かな人気を集めていると聞きます。
獺祭のエールは、一気に呷るのがもったいなくなるような、豊かな香りと味わいに満ちています。
地ビールが数千種はあるというアメリカから来たビール通の知人が、“日本で飲んだビールの中で、これが最高!”と、太鼓判を押してくれました。しかも、このボトルの色を見てください。
こんなに美しく青いビンなら、インテリアをブラッシュ・アップさせるために、一役買ってくれそうではありませんか。
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☆一生分を食べつくす!
夜は、山陽線櫛浜駅にほど近い、ふぐ料理専門店『栄えふく』におじゃましました。
天然とらふぐのフルコースを個室でいただきます。
各室ごとに冷蔵庫が備え付けられており、中からお酒を自分たちで出していただくという、なんだかホテルか旅館にいるような気分、もちろん獺祭も用意されています。
ふぐは、さすが本場、しかも穴場ということで、食べきれないほど!東京では、限りなく薄くスライスされたふぐさしを、ほんの数枚いただくのが精一杯のわたしは、この夜、一生分のふぐをお腹におさめてしまったかもしれません。
酒蔵で決めたように、白子のポン酢和えには三割九分、ふぐ刺しには二割三分、から揚げにはにごりを合わせました。まさにパーフェクトで、この幸せを皆にも伝えたいと心から思います。
伝えられるだけじゃ、つまらない?確かにそうですよね。ならば、ぜひぜひ、皆様も足を運んでみてください!
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1月27日(火) ちらちらと雪 そして晴れ
☆足を伸ばしてみました。
翌日は、レンタカーで回れるところを、ドライブしてみました。
徳山から約20分ほど光市に向かって走り、虹が浜という美しい砂浜を見つけました。
晴れていれば、遠く南東に四国を、南西には九州大分の国東半島を望める白砂のベストスポットです。
夏場は海水浴客でにぎわうそうですが、チラチラと粉雪が舞いだしたこの日は、さすがに人影はありませんでした。
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蔵元から車で15分ほどの山間、八代に、ナベヅルの飛来地がありました。
戦後はもっと数がいたそうですが、年々減り続け、今年は11羽が遠くシベリアからやって来たそうです。
備え付けの100円式望遠鏡で、餌をついばむ、すんなりと伸びやかで美しい姿を観察することができます。
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蔵元から岩国に向かう途中に、とても目を引くレストランがありました。
地元では有名なお店で、時代劇の撮影現場に紛れ込んだような錯覚を起こさせる、異色のファミリーレストラン、『いろり山賊』です。
名物は、やまめのせごしと、ブロイラーに特製たれを付け、炭火で焼いた山賊焼き。
さっそくお昼ごはんに、いただきました。車でなければ、一杯いくのにと思っていると、あの永六輔さんの声…テレビのロケにいらしているようでした。
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新岩国の駅を通り過ぎ、錦帯橋を訪れてみました。
江戸時代に作られた木製のこの橋は、修理に細かい技術が要求されます。
今はまだ修理の必要はないのですが、技術を持った方がご高齢なので、早めに技術を伝承するために、現在、一部、 修繕作業が続けられています。
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午後1時過ぎに、新岩国から東京へと帰路に着くことにしました。空には太陽が明るく輝いているのに、光の粉のように雪が風に舞っています。重たい荷物を抱えてホームに立ちこだま号を待っていたとき、ふいに、前日、桜井社長が言われた、「人間が一生に飲める酒の量には限りがある」という言葉が、思い出されました。一泊の酒蔵探訪に、大きな荷物はいらないと、小さなバッグで出かけてきたのですが、帰りは蔵元で買ったできたてのお酒が入った大振りの袋が加わり、容赦なく手のひらに食い込んできます。あれもこれもと欲張った上、東京に帰ってすぐに飲もうと、宅配をお断りして持ち帰ろうという浅ましさに、我ながら、思わず苦笑がもれてしまいます。際限を知らないというのは、恐ろしいことです。
そう、わたしたちができることには、すべて限りがあるのです。なればこそ、楽しんでお酒を飲みましょう…酒のみならず、料理を、それを盛る器を、そして何よりも、共に酒席を囲む人たちとの語らいを楽しみましょう…
桜井社長は、きっと、こうおっしゃりたかったのだろうと、心にストンと落ちるものがありました。来た時よりも、おそらく長く感じられるだろう復路の間、蔵人さんたちの心が造り上げた奇跡のようなお酒“獺祭”をどのように演出して暮らしに彩りをつけようか、心躍る想像をめぐらせながら、旅の続きを楽しむことにいたします。
「酔うため売るための酒でなく味わうための酒を求めて」日夜、精進されている蔵元の皆様方に感謝しながら、夕映えの富士を過ぎ、生まれ育った東京に向かう旅の続きを、楽しむことにいたします。
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(向かって右上が桜井社長、左上が筆者。右下は上槽担当の中村さん、左下は、瓶詰め担当の松村さん)
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